トレースまでの時間・トレースからの時間

型入れのタイミングはトレースをみて判断するのが一般的な作り方です。トレース(trace)=跡が残るという意味なので、泡立て器やゴムべらからしたたる生地で線を描いて、表面に跡が残ればトレースが出ている=型入れOKということになります。

オイルとアルカリを合わせ混ぜていくと、最初はシャバシャバした液体です。攪拌を続けていくと、石けん生地は少しづつとろみがついていきます。ちょっととろみがついたかな?と思って線を描いてみると、線がすっと消えてしまいます。これはまだトレースが出ていない段階です。もっと混ぜていくと、今度はうっすら細い線が残ります。これはすごく軽いトレースです。攪拌を続け、石けん生地ののとろみがどんどんついてくると、太い線が表面に乗っかって立体的に見えてきます。これはしっかりしたトレースです。こんなふうに石けん生地はどんどん変化しています。(レシピは同じものと想定して)泡立て器だけで混ぜたときでも、ブレンダーを使って混ぜたときでも、どちらもシャバシャバからスタートして徐々に軽いトレースになり、さらにしっかりしたトレースと進んでいきます。ただ泡立て器とブレンダーでは生地が変化していくスピードは違います。泡立て器で混ぜていれば生地の変化は比較的ゆっくりです。ブレンダーでガガガーっと混ぜ続ければ、あっという間にしっかりトレースになってしまいます。通る道は同じでも、自転車と車では走るスピードが違うように、泡立て器とブレンダーでは生地がたどる変化は同じでも、変化するスピードは違うのです。

生地が変化するスピードを見ることはデザイン石けんの作業に大きく役立ちします。なぜならトレースが出た生地はすぐに型入れするわけではなく、まずは生地をいくつかに分けて色をつけていき、そこから順に型に注いで模様を作り、時には竹串でスワールを描いたりするからです。作業をしている間に生地はどんどん変化していきますから、ちょうどいいトレースが出てから生地を分けていくと色をつけている間に生地がかたまってきて、型入れやスワールまで間に合わない場合も出てきます。まずは自分が作りたいデザインはどれくらいの作業時間が必要なのかを考えた上で、生地がどんなスピードで変化しているかをチェックすれば、逆算して生地を分けるタイミングを知ることができます。

こんなことを書くと、なんてマニアック!そんなの経験者しかできない!と思うかもしれません。でもスピードをみる方法はとても簡単です。トレースを2回チェックするだけです。やり方は以下の通りです。

1 1回目のトレースチェック。

まずは自分がねらっているトレースよりも少し前に一度トレースを見てみます。たぶん跡がすっと消えてしまうか、うっすら出てるか出てないかわからないくらいでしょう。その生地の様子を覚えておいてください。

2 1、2分石けん生地を放置する。

泡立て器やゴムベラをボウルから出し、生地をいじらずに1、2分おきます。生地を動かさないとどれだけ変化が進むかをチェックします。石けん生地はある時点から、混ぜるより放っておいたほうがとろみのつき方が早くなります(これについては旧ブログの2009年の投稿“point of no return”をご覧ください。ちなみにpoint of no returnよりも前だと生地は水と油に分離しやすいです)。その性質を利用して1、2分生地をそのまま置き、変化の仕方をチェックします。
*「1、2分」というのは感覚的なものでOKです。ストップウォッチできっちりはかる必要はありません。

3 1、2分したら2回目のトレースのチェックします。ゴムべらに表面の生地を軽くつけ、したたる生地で線を描いてみます。ゴムベラをボウルの中に入れてぐるっとまわしてからトレースをみるのはNGです。それでは生地がゆるくなってしまい、正しく生地の変化をみることができません。2回目のトレースでは、1回目よりも生地に少しとろみがついて、軽く線が残っているような状態になると思います。例えば、作りたいデザインの色分けからスワールまでの作業時間が10分くらいだと予想した場合、1、2分後の生地の変化を確認すれば10分後の変化もなんとなく予想がつきます。例えばもし1回目と2回目でほとんど生地の変化がみられなかったら、そのまま放置しても10分後にしっかりトレースが出ていることはまずない、と予想ができます。この状態で型入れしてしまうと生地がゆるいままで、型を動かせばすぐに模様がくずれてしまうでしょう。この場合は攪拌を続けて、再度トレースチェックをした方が無難です。逆に1、2分の間に太い線がくっきり出るほど生地が変化していたら、速やかにデザインの作業へ進んだ方がいいと思います。このように1、2分間の生地の変化を見れば、作業時間中の生地の変化を予想することができます。