お酒のレシピを作っていると、アルコールってどれくらい飛んでいるんだろう?とよく思います。加熱してアルコールを飛ばすのに、例えば40度のウォッカなら半分くらいに煮詰めたらいいかなとか、14%のビールなら3分の2くらいまで煮詰めたら飛んでいるだろうとか、これまでは結構いい加減な判断でやっていました。生地にうまく混ぜ込めてるからたぶんアルコールは飛んでいるんだ、などとこれまた勝手な結論をつけてみたり。でもやっぱり疑問は残ります。
アルコールを飛ばすのにどれくらい加熱したらいいのか、アルコールが飛んだことを確認する方法はあるのか?そもそもアルコールは完全に飛ばすことができるのか?疑問を調べるために、料理を科学で検証する番組”America’s Test Kitchen”で探してみました。
Cooking with Alcohol (America’s Test Kitchen より)
上の動画に登場する教授によると、(お酒の入った煮込み料理など)どれだけ長く加熱してもアルコールを完全に飛ばし切ることはできないそうです。アルコールと水は鍋の中でazeotropic mixture(共沸混合物)と呼ばれる混合液になっていて、別々に存在するというよりもまるでひとつの液体のように振る舞うというのです。この混合液が沸騰するのは水の沸点(100度)よりもかなり低くアルコールの沸点(約78度)よりも少し高い80度ほど。最初に出てくる湯気はアルコールを多く含んでいますが、アルコールが揮発するにつれ湯気の中の水の量が増え、その結果、鍋の中の液体の温度も上がってきます。終わりの方になると湯気に含まれるのはおよそ95%が水で5%がアルコールとなり、沸点も水より少し低いくらいになるそうです。でも残りの5%とは少なくとも残っているということで、完全に飛ばし切ることはないようです。
それでは鍋の蓋があるとないとでは揮発しやすさは違うのでしょうか?America’s Test Kitchenではシチューを使って実験しています。赤ワイン入りのビーフシチューを蓋をした鍋で煮込んだところ、3時間で60%しかアルコールが揮発しなかったそうです。対してより広い鍋に入れたチキンシチューを蓋をせずに煮込んだところ、28分の煮込みで90%のアルコールが揮発したそうです。この実験から、早くアルコールを飛ばしたかったら広くて浅い鍋を使うのがいいというのがわかります。また透明石けんなどアルコールを極力残したいときは寸胴のような鍋でしっかり蓋をした方がよさそうです。
ではチンキやお酒類などを使ったオプション材料をどこまで加熱したらよいのでしょう?完全に飛ばないなら何%まで飛ばせばいいのでしょうか。またアルコールが何%残っているかどうやって調べたらいいのでしょうか?
水割りの濃さをチェックできるあっとマドラーという商品もあります。これはこれで楽しいかも。
でも大切なのは、残留アルコールの量よりも、石けん生地に入れたときに急激な変化が出ないこと、つまり作りやすいことだと思います。何%ならよくて何%ならダメなんて決めるのもおかしいですよね。アルコールをどれほど揮発させるかより、どうオプションを入れるかに視点を変えることで、お酒を入れたレシピがぐっと作りやすくなりました。私は以下のような方法でお酒を入れていますが、これだとアルコールを飛ばさなくてもいつもと変わらず作ることができます。
・苛性ソーダ水とオイルは常温で準備する。
・苛性ソーダ水とオイルを合わせたら、ゴムベラで攪拌。
・ゴムベラで攪拌しながら、お酒を3、4回に分けて加える。
・お酒がすべて入ったときに生地が急激に変化していないことを確認したら、泡立て器やブレンダーで攪拌する。
この方法でこれまで、酒粕、ビール、日本酒、チンキなどいろいろ入れましたが問題なくできました。絶対できるという保証はないですけど、興味のある方はお試しくださいね。
加熱しなくてもいいと書くと、「加熱しないんだ!」と解釈されそうですが、それはちょっと違います。例えばビールや日本酒などアルコール度数の低いものは水っぽいので、濃度を高めるために水分を飛ばしたりしますし、スパイスやハーブの香りをお酒に移すために煮詰めることもできます。
またお酒に何かを漬け込むときに、一緒にグリセリンやはちみつも入れて漬け込むこともあります。これだと少しトレースが出にくくなるかなという願いを込めてます(はっきり効果があると感じるほど数を作っていないのでなんとも言えませんが)。残ったものはレシピによりそのまま化粧水に使ったり、飲んだりできます。
私のお酒を使った石けん作りは、「アルコールを完全に飛ばす」という意識から始まりましたが、いろいろ作ってみた結果、あまり型にはめ込むことなく自由にやってみた方が作りやすく、応用範囲が広がるような気がしました。こうでなきゃ、というこだわりから出るとおもしろい発見がたくさんありますので、いろいろ試してみてくださいね。